バリ島のバリ絵画(バリアート)

バリ島の魅力の一つ「バリアート」とは?

バリのホテルに泊まって、部屋の中に飾られたバリ絵画をごらんになったことのある方も多いと思います。ウブドの街を歩いていると、いたるところに「アートギャラリー」という文字。村へ立ち寄ればおうちの入り口に「ペインター」という看板。バリ島には本当に「画家」がたくさんいるんです。
バリ絵画は、いつ頃、どんなふうにして始まって、どのように発展していったのでしょうか。現在のバリ絵画を取り巻く現状や、これからのバリ絵画について、ナビがご案内します。あなたとバリ絵画の、出会いのお手伝いができますように。

バリ島絵画の成り立ちと種類について

現在のバリ島民は、16世紀後半に、イスラム勢力がジャワ島を侵攻したことにより、ジャワからバリへ逃れてきたジャワヒンドゥー、マジャパイト王国の子孫たちだと考えられています。彼らによって開かれたゲルゲル王朝の時代、バリ絵画は王宮の装飾絵画として誕生し、その後王朝文化を背景に、ヒンドゥーの神々や神話の世界を題材として発達することになりました。当時の絵画の手法は「カマサン・スタイル」と呼ばれるものです。
「カマサン・スタイル」の代表的なものは、東部バリ、スマラプラにある「クルタ・ゴサ(裁判所)の天井画」です。特徴は、黒、白、黄色、青、茶色の5色を使い、人物やモチーフは「影絵」のように平面的に描かれます。昔は布に米の粉を張り付け、絵の具には、すす、灰、土、植物など自然の成分のものを使っていたようです。いづれにせよ、この時代「カマサン・スタイル」の絵画は、「芸術」というよりも「伝統芸能」として奉納され、伝承される性質のものでした。
そんなバリ島の絵画に転換期が訪れたのは、インドネシアがオランダの占領下にあった1930年代のことです。当時、バリ島中部のウブドは、領主チョコルダ・スカワティのもと、ヨーロッパから多くの芸術家が訪れる、ちょっとした、「アートの中心」でした。ドイツ人音楽家のウォルター・シュピースや、オランダ人画家ルドルフ・ボネらが有名です。彼らヨーロッパの芸術家たち、とりわけ画家たちが、地元の農民たちにキャンパスや絵の具を与え、遠近や陰影の手法を教え、また、日々の生活を題材とする絵画というものを教えていきました。ここから生まれたのが、「バトゥアン・スタイル」「ウブド・スタイル」と呼ばれるものです。
それまでの「カマサン・スタイル」とヨーロッパの絵画技法が融合して誕生したのが、「バトゥアン・スタイル」です。「バトゥアン・スタイル」では、墨絵のような細密画で、キャンパスいっぱいに隙間なく、ヒンドゥの神話や農村の風景などが描かれました。西洋絵画の遠近法のテクニックの影響があちらこちらに見られますが、人物を描く手法、角度や色彩には、「カマサン・スタイル」の名残が強く見られます。
次に登場したのが「ウブド・スタイル」です。1930年代にウブドに住み着いたオランダ人画家ルドルフ・ボネが、ウブドの画家たちに教えた新しいスタイルで、遠近法、陰影法をとりいれ、それまでの絵画が「植物や土など自然の成分から抽出した色」を使っていたのに対し、「絵の具」をとりいれることにより、自由な色彩での表現を可能にしました。これにより、バリの絵画は飛躍的に発展を遂げることとなり、広く世界に知れ渡ることとなりました。「ウブド・スタイル」では、淡い色彩で、村人の生活がいきいきと描写されるのが特徴です。
同じ頃起こったスタイルとして特筆すべきなのは「シュピース・スタイル」です。これは、ドイツ人音楽家であり画家でもあった、ウォルター・シュピースの画風を踏襲するスタイルです。主に農村の風景、棚田や山々の連なりなどを、西洋絵画の遠近法を駆使して描く画風で、濃淡をつける過程を繰り返しながらも、けして色を濁らせない精密な作業を要求されます。その工程には時間もかかり、シュピース・スタイルの画家は現在あまり多くないのが現状ですが、その幻想的な絵画には、根強いファンも多いようです。
さて、1950年代になると、ウブドの西、プネスタナン村で、オランダ人画家アリー・シュミットを師とする若いアーティストたちが新しい手法を生み出しました。これが「ヤング・アーティストスタイル」と呼ばれるものです。画面全体にびっしりと隙間なく描き込まれるのは、バリの農村風景や儀式など、村の生活のあれこれ。陰影をつけないはっきりした線で輪郭を描き、鮮やかな色で彩色していくのが特徴。ポップアート風の「ヤング・アーティスト」スタイルの絵は、いきいきとした躍動感にあふれています。
1970年代になると、ウブドの南、プンゴセカン村で、「プンゴセカン・スタイル」が登場しました。これは別名「フローラ・フォウナ」とも呼ばれ、鳥や花を題材とした、日本の花鳥画にも似た風雅な画風が特徴です。竹筆で陰影を付けた下絵に丹念に色を重ねて仕上げていきます。熱帯の花々を描いたこの「プンゴセカン・スタイル」の絵は、どこかしら「日本画」的な雰囲気もあり、日本人にはとてもしっくりくるものです。
さて、今までご紹介してきたように、バリ絵画にはいくつかの「スタイル」があります。が、バリ絵画のすべてが、これらのスタイルのどれかに当てはまるかといえば、実はけしてそういうわけではありません。
現在のバリ島では、これら既存スタイルの「ミックス」、もしくは、既存スタイルに新たに自分なりの手法をプラスした、独自のスタイルを持つ画家も多く見られます。また、既存スタイルを用いながら、題材をもっと自由に求めて、独特の世界を表現している画家も。
さらにこれら既存スタイルとはまったく違うオリジナルな絵画や、「アブストラクトアート」抽象画の作品も多く見られるようになりました。
実はここ10何年かのバリ絵画の傾向は、ご紹介してきたような既存のスタイルの画家の減少が目立っています。それは別の言葉で言えば、既存のスタイルにとらわれない独自のスタイルを持つ画家が登場している、とも言えるのですが。最近目立つこういった傾向には、理由があります。まず第一に、製作に細かい作業を要する伝統絵画はできあがるまでに時間がかかることに加え、すでに評価されている先人画家が多くいるため、新人画家が評価されるのに時間がかかる、ということがあります。また、伝統絵画が昔ながらの「徒弟制度」で、親から子へ、と受け継がれてきたことに対して、新しい絵画のテクニックを国立美術学校のような専門的な教育機関で学ぶ若者も増えてきました。こういった内外の理由から、バリ絵画は現在ひとつの分岐点に差し掛かっているように思われます。
寺院や王宮の「装飾」として誕生したバリ絵画は、「伝統芸能」としての性質を強く持つものでした。現在のバリ絵画を取り巻く状況は、職人技としての伝統絵画の危機、という側面を持ちつつも、オリジナルな表現芸術としての絵画へ、生まれ変わろうとしている時なのかもしれません。
バリ島の絵画は、まだまだどんどんかたちを変えて、発展していく可能性を秘めていると言えます。

バリ絵画、どこで見る?どこで買う?

ウブドには、バリ絵画を集めた美術館やギャラリーが点在しています。はじめてバリ絵画を見るのなら、これらを訪れてみるのがいいでしょう。
ただ、前にも述べたような理由から、ここ何年かのバリでは、プンゴセカンスタイル以外の「伝統絵画」を描く画家は、一部のすでに高名な画家以外非常に少なくなっている状況です。そのため最近新しくできたギャラリーなどでは、まず伝統絵画にお目にかかることはできないでしょう。伝統絵画をしっかり鑑賞したければ、まずは美術館へ行くことをおススメします。
ウブドで広くバリ絵画を鑑賞できる美術館としては、「プリルキサン美術館」「ネカ美術館」「アルマ美術館」があります。このみっつの美術館では、特に伝統絵画、及び1930年代以降のバリ絵画の変遷を、その時代の特徴的な絵画とともに展示してありますので、バリ絵画の移り変わりを実際に見ることができます。
ウブド、及び近郊には、バリ絵画を扱っているギャラリーがたくさんあります。中には美術館のような設備を持つ大きな規模のものもあります。そんなギャラリーを訪れて、お気に入りの1枚を見つけるのもいいでしょう。大きなギャラリーに集められている絵は、ある程度評価 されているものばかりなので、クオリティーの面でも安心できます。
ウブド中心にあるネカギャラリー。クオリティーの高い絵が揃っています。 ウブド中心にあるネカギャラリー。クオリティーの高い絵が揃っています。 ウブド中心にあるネカギャラリー。クオリティーの高い絵が揃っています。

ウブド中心にあるネカギャラリー。クオリティーの高い絵が揃っています。

ウブドを歩いていると、家の前に「Painter」と掲げているおうちを見かけることがあります。ここはまさしく「画家さん」のおうち。自宅兼アトリエ兼個人ギャラリーというところも。そんなところで直接絵画を購入することもできます。プンゴセカンやプネスタナンは、特にこういった「Painter」が多いエリアです。
そのほかに、バリ絵画を購入できる場所は、街中のお土産もの屋さん、市場、アートマーケットなどです。探してみれば思わぬ掘り出し物に出会える可能性があるのも、こういう場所。
ギャラリーへまだ絵を置いてもらえない若い画家の習作がでている場合もあります。何年かしたら、名前のある画家になっているかもしれない、そんな「未来の画家」の絵に出合えるかもしれないのがこういった、街中のお土産もの屋さん。よく「お土産もの屋さんに置いてあるのは、ニセモノでしょう?」とおっしゃる方がいらっしゃるのですが、バリ絵画がもともと「伝統芸能」として誕生したことを思えば、「ニセモノ」という感覚はちょっとそぐいません。「伝統芸能」というのは「伝承芸」。はじめたばかりでまだ経験のないものは、先人の作風をひたすら真似て、そのテクニックを見に付けていきます。街中のお土産もの屋さんで売っている絵だとしてもそれらはすべて、画家たちが一筆一筆丁寧に描きこんでいった作品。けして「ニセモノ」ではありませんので、どうぞ安心して選んでください。(ただ、こういう市場などのお土産もの屋さんで、「これは○○さんの作品です。」と、すでに高名な画家の名前を出された場合は、それはちょっと「ニセモノ」の可能性が高いですね。すでに高名な画家の作品を購入したければ、名前の通ったアートギャラリー、もしくはその画家個人のアートギャラリーへ行かれることをおススメします。)

伝説や神話の神々、農村や田舎の暮らし、あでやかな花々に可憐な小鳥たち、そして美しいバリの女たち。バリ絵画が題材としている素材は今では多岐に渡ります。バリを旅行していて、心にとまった風景やことがらを、一枚のバリ絵画が思い出させてくれることもあるでしょう。お土産もの屋さんの片隅にあった小さな絵でも、それは世界に一枚しかないホンモノの「バリ絵画」です。あなたのお気に入りの一枚に、どうぞ出会えますように。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2011-07-28

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