ムチャル-新しい家を建てました-

バリの伝統的な地鎮祭を行いました。

こんにちは、プスパです。今日は、新しく建物を新築した時に行われる、浄化の儀式、についてご紹介します!

日本でも、家などを新築した際には、地鎮祭、竣工祭などを行いますが、ここ、儀式の島・バリ島でも、とうぜん、それはもう手の込んだ儀式が行われます。
 
「ムチャル」というのは、個人や、村・社会が、肉体的・霊的に穢れ、不浄な状態になったときに、穢れを祓い清め、人や村に力を与え、癒すために必要な、供物のことです。例えば、人間の誕生や死、流血沙汰や、重大な犯罪などがあって、個人や村を守る生命力が弱まり、悪の攻撃に対してもろくなっているような状態のときに、大きな供物を捧げ、不浄な大地に犠牲の血を流すことによって、土地の力を回復させる儀式、と言ったらいいでしょうか。
このムチャルは、大きなものでは、バリの新年であり、静寂の日であるニュピの前日にバリ島全土、村中総出で行われるものが有名です。悪意・粗暴・失敗・不幸・病気・破壊、などいう「悪の勢力」が強まってくると、土地・村・個人の定期的な浄化が必要になります。

2002年のバリ島爆弾テロの時も、島をあげてのおおがかりなムチャルが行われました。また、最近では、プスパの住む地域の近くで自殺者が出て、村をあげてのムチャルが行われました。

新しい土地に、新しく建物を建てるときも、その土地のブタ・カラという悪霊に対してムチャルの供儀を捧げます。それによって、害をなす存在を慰撫し、逆に守護してくれる存在に変えよう、というのです。
私事ですが、プスパの住む家の裏庭に、建築中の建物があります。まだ完成はしていないのですが、今年2009年の3月は、バリ島にとって、まさに「盆・暮れ・正月」が一緒にくる、大忙しの年ですので、その大忙しの時期を避けて、早めにムチャルを行うことになりました。なにしろ、ムチャルのお供えものは、いつものお供え物に輪をかけて、複雑で大量なのです!!助けてー!!
今回のムチャルの儀式は、建物の基礎の地中にお供え物を埋める儀式(地鎮祭にあたるでしょうか。本来は建設がはじまった時にします)、新しく建てた建物とその土地の浄化の儀式(これが、竣工祭にあたると思います)、そして、元々すでにプスパたち家族が住んでいる部分と、新しく広げた敷地の「結婚式(つまり、おなじ敷地でありますよ、という、接続の意味でしょうか?)」の三つが行われました。
大量のお供え物は、何ヶ月も前から、少しづつ用意してきました。椰子の葉を編んで作られたものは、乾燥して茶色く変色していますが、直前に生もの(お花や果物や、供物としての食べ物)をセットします。
本番の何日か前に、男性陣はお供え物に使うアヒル、黒・ぶち・赤(茶色)のニワトリ、を準備します。アヒルでサテを作ったり、ラワール(ひき肉に、ココナッツ・フレーク、インゲンやジャック・フルーツなどの野菜、香辛料、そしてひき肉にされた動物の血を和えた食べ物)を作ったりしてお供え物の準備をはじめます。
前々日からは、親戚の女性達も手伝いに来て、一日中お供え物の準備をします。一部屋がお供え物で満杯!プスパには、何がどこにどうなってるのか、さっぱり見当もつきません!
ムチャルのお供え物、というのは、例えば、寺院で神々に供えるものと違い、ブタ・カラと呼ばれる悪霊にささげるものですので、色々決まり事があり、特別なものを用意します。

さきほど、鶏は黒とぶち(いろんな色が混じっている)と赤(茶色)を用意する、とご紹介しましたが、この「色」には意味があります。

まず、黒は、水のあるところ、井戸や貯水槽、排水溝に対応します。水をシンボルとする神はウィシュヌ神、方角は北。

赤は、火のあるところ、台所のカマドに対応します。火をシンボルとする神はブラフマ神、方角は南。

白は、清浄を表す色であり、イスワラ神またはインドラ神を象徴しています。方角は東。ゆえに太陽神を象徴しているともいえます。

黄は、マハ・デワ神を象徴し、方角は西。

と、いうように。

本当はバリの基本方位図は8つの方位であり、それぞれに対応する守護神、音韻、色があります。方位図の中央は、混合色、シワ神を象徴しています。全ての供物はこの方位図に従って準備されます。

準備されるお供え物は、あまりに膨大で、プスパにはとても、意味も名前も覚えられませんが、印象に残ったものを少しご紹介しますね。
ムチャルには、なぜか必ず、「トンボ、リンドゥンと呼ばれる田うなぎ、バッタ、カエル」を串刺しにして丸焼きにしたものが使われます。なぜこれらの生き物が使われるのか、作っているバリ人たちもよく分かっていないようでした(笑)。特徴といえば、田んぼに居る小動物、という事でしょうか。
どのようなお供え物にも、サテ(肉の串焼き、あるいは串揚げ)は欠かせません。ムチャルには、「サテ・アッサム(内臓を串刺しにしたもの)」と「サテ・ルンバット(ひき肉とココナッツ・フレークと香辛料を混ぜてつくね状にし、串に巻きつけたもの)」という二種類を6本づつセットにしたものが使われます。焼いても揚げても、どちらでもいいのですが、日持ちするように、油で揚げることのほうが多いようです。サテの串は、竹を細く断ち割ったものが使われ、何日か前から、男連中が準備してあります。
どうして供物にサテを使うのかというと、幾種類ものお供え物すべてに全部お肉をそのまま使っていたら、大変な量のお肉が必要になってしまうからのようです。サテは、ひき肉にココナッツ・フレークや、香辛料のみじん切りやらを混ぜて作るので、一羽から沢山のサテが作れる訳です。
各お供え物の盆に、かならずココナッツの若い実がついています。これは、そのお供え物を供え終わったあとに、実の中のココナッツジュース(水)を地面にまいて、最後の清めをするからだそうです。
地面に直接置かれるお供え物は、お菓子であれ、果物であれ、サテであれ、お肉(焼くか揚げるか煮るかして、火を通したもの)であれ、お下がりは戴きません。そのまま処分します。が、欲しい、という人には自由に持っていってもらっていいそうです。家畜を飼っている家庭では、家畜の飼料ともなるのです。
「サントゥン」と呼ばれるお供え物も、必ず使われます。アルミ製のバケツのようないれもの、もしくは椰子の葉でバケツ状に形作られたものに、ココナッツの実、卵、生米、バナナ、ペス・ボロンと呼ばれる真中に穴が空いた銅銭、チャナン、幾種類かの椰子の葉・バナナの葉でなどで作られたお供え物が入れられます。ココナッツはバリ・ヒンドゥー教には欠かせないもので、実の中の水が聖水・ティルタをシンボライズしているようです。卵も必ず使われるのですが、卵には、「悪いもの、不浄なもの」を吸い取るという力があるそうです。プスパはそこで、料理の中で、卵をアク取りに使うことを思い出しました(笑)。
いよいよムチャル。この日は、ブタ・ヤドニャと呼ばれる、ムチャルを行っても良い日が選ばれます。

当日は朝早くから、この日のために準備したお供え物を、ムチャルが行われる場所に設置し(これだけで午前中一杯かかりました!)、準備万端ととのったら、この儀式を執り行ってくれるお坊さんをお迎えに行き、お坊さんが来るまで、地面に置かれたお供え物のお肉やサテが、野良猫や野良犬にかっぱらわれないように見張りつつ、しばし待機します。
余談ですが、バリは、野良猫・野良犬天国です。正確に言うと、犬は野良ではないのですが、飼い犬でもほとんどがのらと同じようなもので、つながれていることはまずなく、食べ物があったらどこでも、隙を見てあっという間に奪い去っていきます。

なので、供物をたくさん用意して、供えて待っているときというのは、常に誰かがお供え物に目を光らせて、大事なメインのお肉やサテを持っていかれないように気をつけています。お供え物を供える場所が何ヵ所もある上、広い範囲にわたっているので、「お供え番」にかなりの人数が要ります!日本でだと、まず有り得ない光景ですよね(笑)。今の日本には、野良犬も野良猫も、いませんものね。

さて待つこと一時間、お坊さんがやってきました。お坊さんは、マントラを唱えながら、この儀式の「式次第」を、家の女性人に指示します。儀式を実際に執行するのは、家人である女性達なのです。
新しく建てられた建物(二ヵ所)には、それぞれ、ご神体を入れた新しいプランキラン(神棚のようなもの)が取り付けられます。
扉の前の軒には、ウラップウラップと呼ばれる、白い布きれが貼られています。この白い布はお坊さんにマントラを施してもらったものを使い、ボロボロになっても、薄汚れても、自然にちぎれて落ちるまで、そのまま貼っておきます。護符のようなものでしょうか。
ムチャルのお供え物を置く場所は、二つの建物、貯水槽、それからそこの土地、合計四ヵ所でした。そのひとつひとつに、サンガ・チュチュと呼ばれる簡易の祠が建てられ、お供え物が置かれます。
その前には、椰子の実の殻を燃やしたものを置き、さらに、プニンプッと呼ばれる、爆竹(レンガを組んだ物の上に竹を3本並べ、下に火をつけて3回破裂させる)を設置します。

これは、地面のブタ・カラ(悪霊)を、爆音と煙で追い払う、という意味があります。前述のニュピの前日も、夜中まで、それは派手に爆竹を鳴らしまくりますが、中国の爆竹と同じ意味だと思われます。
女性達がキドゥンという、ご詠歌をうたい、お坊さんが真言(マントラ)を唱えながら、儀式は進んでいきます。お坊さんの指示に従い、女性達全員で、ティルタ(聖水)、椰子酒、水、線香、卵、などを持ち、幾種類かのティルタ(聖水)で場を清めてまわります。これは、家族の女性総出でまわるので、プスパも片手にティルタを持ち、片手でカメラを持ち撮影!おかげで、臨場感溢れる(笑)あやしい画像になってしまいました。
その後も、建物の壁や扉に、椰子油、ハチミツ(血の代わり)、聖水、米紛などをこすりつけたり、色んな儀式が続きます。
最後に、ムチャルで使ったお供え物、サンガ・チュチュなどをすべて、これもまた特別に用意した、ほうきなど、掃除道具をかたどって作られたものを使って、「掃除」します。歌をうたいながら、お供え物のまわりをぐるぐる回り、サンガを倒し、役目を終えた供物を、まんなかに掃き寄せるのです。
画像に写っているように、ムチャルには犠牲の動物の血が使われますが、今回はお坊さんの指示で、血の代わりに、ハチミツを使いました。ココナッツ・オイル、血(はちみつ)、聖水の三つがセットになっています。
一連の行事が終り、最後に、基礎の地面の中に、定められた供物を埋めます。

レンガ(石)を白と黄色の布でくるみ、クワンゲン(神様のシンボル)、供物の鶏肉、サテ、チャナンなどと一緒に、地中に埋めます。
これで、予定の儀式は全て終了しました。

この「ムチャル」は、必ず行わなければならない訳ではないそうです。でも、やむを得ない事情がある場合を除き、ほとんどのバリ人は、ムチャルを、ことある毎に行います。なにか良くないことが起こると、「まだムチャルをやっていないから」とか、「供物が足りないから」ということになるようです。

親戚の女性が、おもしろいたとえ話で説明してくれました。

お供え物の種類にも、上・中・下、などのランクがあります。費用も時間もない場合、本当に基本の基本だけ、小さいお供え物で済ませる場合もあります。これを、例えば、下着(パンツ)に例えましょう。素っ裸では恥ずかしいので、せめて下着だけでも、という感じ。でも、普通は下着(パンツ)の上に、ズボンかスカートをはきますよね?それが「中」のお供え物に当たるわけです。その上に、上着を着ましょう。これが「上」のお供え物に当たります。これで充分、と思えばそれでいいし、その上に更に、アクセサリーやお化粧で更に完璧に、という人も居ますよね?そういう場合は、更に費用も手間ひまもかかる供犠を・・・と、お供え物には上限はありません。盛大にしようと思えば、いくらでも出来るのです。ただ、バリ人は素っ裸で居ることが恥ずかしいように、何のお供え物もしないと、とても落ち着かず、気持ちが悪いのよ、と、その女性は語ってくれました。
また、ムチャルについては、着ている服を何日もずっと洗わないで着つづけて、平気ならそれはそれでいいけど、普通は気持ち悪いですよね?だから、定期的に、洗う。そうすると、清潔になって、気持ちがいいですよね。ムチャルもそれと同じで、定期的に浄化の儀式をおこなうことで、家庭や村の安寧を保つのだ、と説明してくれました。
お寺で華やかに行われるお祭り・オダランと違って、家で行われるムチャルなどの儀式は、外国人観光客はあまり目にする機会がないと思いますが、バリ人たちは今日もどこかで、お供え物を供え、祈り、なにかの儀式を執り行っています。本当に、このような宗教儀式が日々の生活の中心となっているバリ。「神々の島」と世界に名だたる所以ですよね。

もし、あなたがこの島で、バイクや車、もしくは土地や家を買った場合でも、必ずお世話になっているバリ人に、これらの儀式をお願いすることになります。これらの儀式を済ませていないと、バリ人はそのあとの管理を嫌がるでしょうから、あなたがバリ島にいない間、とても困ることになりますので、くれぐれもお忘れにならないように!

以上プスパでした。
関連タグ:ムチャルお供え物

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2009-04-03

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