音の宝島 第2話~村中がスロンディンの音に包まれる

三年に一度の儀式 「ムーラン・デサ」

ルジャン

ルジャン

こんにちは、バリ島ナビのASKA RyujiN-TyphooNです。バリの東、トゥンガナンはバリ・アガ(バリの先住民族)が住む村として有名です。バリ島好きなら一度は訪れたことのある村でしょう。彼らの文化の特異性は彼ら自身も自覚しています。村のお坊さまから「三年に一度の儀式があるから来るように」とお誘いがありました。これは「行かねば!」でしょう。
トゥガナンの暦は三年周期です。
1年目は360日で12ヶ月。
2年目は352日で12ヶ月。
3年目は283日で13ヶ月、というぐあいです。
この1年が13ヶ月の年に“ムーラン・デサ”の儀式が行われます。トゥンガナンの人たちにとって特別の儀式です。
アユナン

アユナン

儀式のはじまる前、男の子たちがアユナンで遊んでいます。日が沈み、空が青みをましてゆきます。“ムカレ・カレ*”(プラン・パンダン)の祭りを見たことがある人にはおなじみのアユナン*は木製のブランコです。木のキシミ音が長く耳に残ります。儀式がはじまるまで、アユナンは男の子たちのいい遊び道具です。乗ってみると思いのほか高く、これを思いきり回すと、なかなかスリリングな乗り物になります。男の子たちが面白がって遊ぶ気持ちがよくわかります。
月とアユナン

月とアユナン

さて、月がでてアユナンの屋根にひっかかり、村はすっかり暗くなりました。驚いたことに、南のバレ・アグン*の前に、バナナの林ができあがっています。結界のようなものでしょう。儀式に関わる人以外は中に入れません。バナナ林の東側には、トゥガナンでいちばん大きなスロンディン*(鉄のガムラン)がお出ましになっています。そして、西から南側へぐるりと、男たちがご飯とトゥアック(ヤシ酒)を前に座しています。お膳を前にした宴(うたげ)のような様相です。
南のスロンディン

南のスロンディン

スロンディンには、録音の許されない神聖な曲があるというのは、よく知られています。曲は3種類に分類することができ、その2種類が神聖な曲として録音禁止なのです。ところが、初めて知ったことなのですが、スロンディンが皆で演奏される前に、リーダーがゆっくりと一音一音、音をさぐるように叩いていきます。この“音取り”も録音禁止なのです。最初の音は神聖化されているようです。スロンディンの音は深く、どこまでもクリアで、惚れ惚れするほど美しいです。
全員の演奏が始まると、女の子たちが一人ずつバナナ林の中に入り、東、西、もう一度東、三度手を合わせます。そして、ルジャンがはじまりました。このバナナ林の中のルジャンは、特別な儀式のようで、一人の女の子が踊り終えると、お坊さまがひとつのお供え物を木の下に置きます。そして、お供え物は女の子の数分並びました。ルジャンは神さまを迎えるための踊りです。トゥンガナンのルジャンは限りなくシンプルです。
バナナ林の中で踊るルジャン バナナ林の中で踊るルジャン バナナ林の中で踊るルジャン

バナナ林の中で踊るルジャン

一人の女の子が、アユナンに乗ってはその周りを回ります。3度回りました。
アユナンの周りを回る アユナンの周りを回る アユナンの周りを回る

アユナンの周りを回る

その後、全員でバナナ林とアユナンの周りを大きく回りだしました。女性は右回り、男性は左回りに3度回り、そのまま列をなし北へと向います。
音の宝島 第2話~村中がスロンディンの音に包まれる トゥガナン バリ・アガ ムーラン・デサ ムカレカレスロンディン 列をなして巡る

列をなして巡る

北へ向かう

北へ向かう

北の建物は、バレ・アグンではなく、若者たちのための建物なのだそうです。奇数の3が好きな人たちです、てっきり“三つのバレ・アグンを持つトゥンガナン”と思っていました。バレ・アグンは中央と南の二つなのだそうです。建物の上では、すでに別のスロンディンがお待ちです。また、ここでも録音禁止の“音取り”からはじまります。
少し淋しげなメロディからオルゴールのようにかわいらしいメロディに移調していきます。これがスロンディンの特徴です。短調から長調へ、また長調から短調へ、するりと変調するのです。
北のスロンディン

北のスロンディン

金の冠の女の子たち

金の冠の女の子たち

ここで、女の子たちのルジャンがまたはじまりました。
お世話役のお母さんたちは、織物好きならよだれが出るほどの布を巻いています。グリンシン(ダブル・イカット)のオンパレードです。これを見ているだけで幸せな気持ちになります。未婚の女の子は金の冠。既婚の女性や男性は髪に大きな花を挿しています。
見事なグリンシン

見事なグリンシン

列をなして巡る

列をなして巡る

音の宝島 第2話~村中がスロンディンの音に包まれる トゥガナン バリ・アガ ムーラン・デサ ムカレカレスロンディン
グリンシンの後姿

グリンシンの後姿

ルジャンが終ると、次は中央のバレ・アグンへ、また列をなして進みます。グリンシンの後姿もみごとです。木の根で染めたエンジ色(あずき色というのがピッタリ)が美しいです。この渋さは、やはり日本人好みでしょう。
中央のスロンディン

中央のスロンディン

中央の高いバレ・アグンの上で、3つ目のスロンディンがお待ちです。このスロンディンがいちばん高い音です。ここでも“音取り”からはじまります。美しい音です。スロンディンの演奏者の多くは年配者です。じいさまの叩くたる~いスロンディンは最高です。深い鉄の音とよく似合っています。他の地域では、ガムランの奏者は、早い時期に若い年代と入れ替わります。スロンディンの奏者が年配なのは、早い時期に次の世代に替わると、その人は早く亡くなるという言伝えがあるからだといいます。
男性が地面にトゥアック(ヤシ酒)を撒きます。カランガッサムでは儀式にこのトゥアックは不可欠です。お供え物と同じ意味があるそうで、神さまにも地にも供えられるということです。そして、バレ・アグンの前の暗い広場で、3度目のルジャンが繰り返されます。トゥンガナンのルジャンは、両手を上げて、左右に身体を向けるだけの単純な踊りです。けれども、踊り手によってこの動きが、とても美しいものになります。アユナンの周りを巡るときも、トゥアックを地に撒くときもこの動きです。あのカレカレの激しい戦いのときもまた、男性が盾とパンダンを手にこの動きをします。とても優雅な動作です。
中央バレ・アグンで踊るルジャン

中央バレ・アグンで踊るルジャン

ルジャン

ルジャン


ルジャンが終ると、また列をなし暗闇の中、南のバレ・アグンにもどってゆきます。こうして“ムーラン・デサ”の儀式は終りました。以上、バリ島ナビのASKA RyujiN-TyphooNでした。

*注釈

*ムカレ・カレ(プラン・パンダン)
パンダンという棘のある植物を手に、男たちが戦う儀式。この時の傷は強い男の象徴だそうだ。皆、得意そうに見せてくれる。今年のムカレ・カレは、この儀式の10日後に行われた。

*アユナン
木製のブランコ… と言うより観覧車のようなもの。二本の柱を軸に広場に立てられている。儀式のときは、両方の柱に男性が登り回転させ、女の子たちがかわるがわる乗る。

*バレ・アグン
儀式を行うための神聖な建物。トゥンガナンの正装(肩が出た状態)で上がらなければならない。普段は北側の部屋にスロンディンが置かれている。

*スロンディン
鉄のガムラン。トゥンガナンのスロンディンは「天から40枚の鍵盤が落ちてきた」という伝説を持っている。その40枚の鍵盤をつかってスロンディンを作ったというのだ。楽器も音も神聖化され、この村以外の人は触れることさえ許されない。村は、3セットのスロンディンを持っている。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2010-09-17

ページTOPへ▲

その他の記事を見る